日々の事等
これで最後の筈…です。
最後でした~。
最後でした~。
「家族ごっこ4」
姫乃を背負って明神はゆっくりゆっくりと歩いていた。
先ほどまで上機嫌で喋っていた姫乃は明神の背中ですうすうと小さな寝息を立てている。
それを起こさない様に、ゆっくりと歩を進める。
(もし私にこんなお兄さんいたら)
姫乃の言葉を思い出し、頭の中で何度も再生させている内に、何だかまんざらでもない気分になってきた。
もし、自分に妹が居たら。
それも歳の離れた妹が。
飛行機事故にあった時、もし、自分に守らないといけない小さな手が残されていたら。
「ちったあ違ったか…?」
無い物ねだりをしてもどうしようもない。
遺されたのは一人で、だから得られた今の行き方があって。
「……んん。」
背中の上で、寝苦しいのか姫乃がもぞりと動く。
軟らかい熱が背中で動くのが心臓に良くない。
ふ、と吐き出された息が髪を揺らしてこそばゆい。
じっとしててくれ頼むからと思いながら、一人赤くなりながら少しだけ歩調を速める。
…まあ、今はむしろ、他人として出会えた事に感謝しよう。
そう思考をまとめると、見えてくるうたかた荘の看板。
「ひめのん。そろそろ着くぞ。」
「…ん。私…寝てた?」
「ぐっすり。」
姫乃はうたかた荘を確認すると、少し俯いて囁いた。
「……ね。少し、遠回りしよっか?」
背中にペタリと頬をくっつけ呟く姫乃。
一瞬グラリと気持ちが傾くけれど、ぐっと堪える明神。
「遠回りって。もう着いちまうぞ?」
「そうだけど、もうちょっとだけ、家族ごっこしてたいなあ。」
あんまりしがみつかれると、兄妹って気分がすっ飛んでしまうんですけど。
喉元まででかかった抗議は必死で飲み込んだ。
逆に、ここは姫乃の言う「家族ごっこ」を貫いてみる。
リアル兄妹を少しでもイメトレしていたのが功を奏した。
「こらこらこら。直ぐにでも布団敷いて薬飲んで寝なさい。って、薬あるか?」
「あるよ。前のが残ってる。」
「…全部飲まないから再発したんじゃねーの?」
「だって治ったと思ったんだもん。」
「治ってねーだろ。」
「もう。口うるさいなあ。今日の明神さんは。」
プウと拗ねる姫乃に、明神は立ち止まり。
「アズミとエージが心配してたぞ。」
「うっ。」
「ん?」
「…ごめんなさい。」
「宜しい。」
ウンウンと頷きながら玄関の扉を開く。
見事な「兄貴ごっこ」を貫き通し、明神は一人達成感を覚えつつ、少々虚しい気分になる。
扉を開けると玄関にはアズミとエージが座り込んで姫乃の帰りを待っていた。
「お帰り!ひめの、大丈夫?」
「ホント、弱っえーよなあ。もうちょっと鍛えろよ。」
明神の背中から降りながら、姫乃は二人がどれだけ心配していたかを思い知った。
「ご、ごめんね。心配かけちゃって。でも大丈夫だから…。」
「大丈夫なら風邪なんかひくかっての!」
年下の筈のエージに言い負かされて何も言えなくなる姫乃。
「エージ!ひめの苛めないの!」
「オレが怒られんの…?」
その姫乃を庇うアズミと叱られるエージ。
その様子を眺めながら。
ああ、これが本当の家族じゃないか。
自分にはせいぜい真似しか出来ないなと思いながら、明神は姫乃をソファーに座らせる。
「じゃあオレ布団敷いて来るし、出来たら買いモン行って来る。」
「あ、ごめん、明神さん。」
階段を上り、姫乃の部屋の前へ。
姫乃が来たばかりの頃は、勝手に部屋に入る事は何となく悪い気がしていたけれど、今ではこの扉を開くという動作もすっかり慣れてしまっている。
始めは、年頃の女の子という事もあって、ノックをして「どうぞ」と言われると少々戸惑った。
ドアノブを握り、それを開くのが何だか緊張して。
出来れば姫乃がこの扉を開いてくれたらな、といつも考えていた。
それが今では勝手知ったる姫乃の部屋。
手早く布団を敷き、タンスからパジャマを出して枕元へ置いておく。
それから、通学用の鞄を椅子の上へ置くと、今度は急いで階段を駆け下りる。
ソファーの上の姫野を抱えようとすると、姫乃は手を振り。
「あ。いいよ明神さん。この位は歩けるから。ね。」
その言葉を無視してひょいと抱えるととっとと階段を駆け上がる。
「わ。わ。わ。」
一段上がる度に姫乃が声をあげる。
姫乃の部屋へ戻り、布団の上に寝かせてカーテンを閉める。
「着替え、そこな。薬どこ閉まってる?」
「あっと…そこの棚の中。」
「はいよ。」
「…ごめんね。本当に。」
うたかた荘に戻ってから、熱に浮かされて調子のおかしい姫乃から、普段の姫乃に戻っている
明神は笑って。
「気にすんなって。」
「…うん。」
「ああ、でも。」
コップに水を入れ、薬と一緒に手渡しながら。
「次は兄妹ごっこより、夫婦ごっこがいいなあ。オレやっぱ兄貴ってガラじゃねえし。」
「わ。わ。わ。わかった。」
飯買ってくる、と勢い良く部屋を飛び出した明神を見送って。
暫く熱い熱いと思っていた頭がもっと熱くなっていて、姫乃は手でパタパタと頬を扇ぐ。
暫くそうしていたけれど、ふっと我に返って、用意されていたパジャマにもぞもぞと着替えだした。
脱いだ制服は、ちゃんと片付けるのがしんどくて、椅子にひっかけてそのままにしておいた。
布団に潜り込んで、目を閉じて。
「…お兄さんだったら、お兄ちゃんでしょ。旦那さんだったら、何て呼んだらいいのかな…。」
そんな事を言いながら。
頭の中がいっぱいで、結局姫乃は明神が戻ってくるまで結局一睡も出来なかった。
母が死んでしまったあの時、一緒の目線で立ってくれる、支えてくれる人が居ればと思ったけれど、今はただ、他人として生まれ、そして出会えた事に感謝しようと考えた。
姫乃を背負って明神はゆっくりゆっくりと歩いていた。
先ほどまで上機嫌で喋っていた姫乃は明神の背中ですうすうと小さな寝息を立てている。
それを起こさない様に、ゆっくりと歩を進める。
(もし私にこんなお兄さんいたら)
姫乃の言葉を思い出し、頭の中で何度も再生させている内に、何だかまんざらでもない気分になってきた。
もし、自分に妹が居たら。
それも歳の離れた妹が。
飛行機事故にあった時、もし、自分に守らないといけない小さな手が残されていたら。
「ちったあ違ったか…?」
無い物ねだりをしてもどうしようもない。
遺されたのは一人で、だから得られた今の行き方があって。
「……んん。」
背中の上で、寝苦しいのか姫乃がもぞりと動く。
軟らかい熱が背中で動くのが心臓に良くない。
ふ、と吐き出された息が髪を揺らしてこそばゆい。
じっとしててくれ頼むからと思いながら、一人赤くなりながら少しだけ歩調を速める。
…まあ、今はむしろ、他人として出会えた事に感謝しよう。
そう思考をまとめると、見えてくるうたかた荘の看板。
「ひめのん。そろそろ着くぞ。」
「…ん。私…寝てた?」
「ぐっすり。」
姫乃はうたかた荘を確認すると、少し俯いて囁いた。
「……ね。少し、遠回りしよっか?」
背中にペタリと頬をくっつけ呟く姫乃。
一瞬グラリと気持ちが傾くけれど、ぐっと堪える明神。
「遠回りって。もう着いちまうぞ?」
「そうだけど、もうちょっとだけ、家族ごっこしてたいなあ。」
あんまりしがみつかれると、兄妹って気分がすっ飛んでしまうんですけど。
喉元まででかかった抗議は必死で飲み込んだ。
逆に、ここは姫乃の言う「家族ごっこ」を貫いてみる。
リアル兄妹を少しでもイメトレしていたのが功を奏した。
「こらこらこら。直ぐにでも布団敷いて薬飲んで寝なさい。って、薬あるか?」
「あるよ。前のが残ってる。」
「…全部飲まないから再発したんじゃねーの?」
「だって治ったと思ったんだもん。」
「治ってねーだろ。」
「もう。口うるさいなあ。今日の明神さんは。」
プウと拗ねる姫乃に、明神は立ち止まり。
「アズミとエージが心配してたぞ。」
「うっ。」
「ん?」
「…ごめんなさい。」
「宜しい。」
ウンウンと頷きながら玄関の扉を開く。
見事な「兄貴ごっこ」を貫き通し、明神は一人達成感を覚えつつ、少々虚しい気分になる。
扉を開けると玄関にはアズミとエージが座り込んで姫乃の帰りを待っていた。
「お帰り!ひめの、大丈夫?」
「ホント、弱っえーよなあ。もうちょっと鍛えろよ。」
明神の背中から降りながら、姫乃は二人がどれだけ心配していたかを思い知った。
「ご、ごめんね。心配かけちゃって。でも大丈夫だから…。」
「大丈夫なら風邪なんかひくかっての!」
年下の筈のエージに言い負かされて何も言えなくなる姫乃。
「エージ!ひめの苛めないの!」
「オレが怒られんの…?」
その姫乃を庇うアズミと叱られるエージ。
その様子を眺めながら。
ああ、これが本当の家族じゃないか。
自分にはせいぜい真似しか出来ないなと思いながら、明神は姫乃をソファーに座らせる。
「じゃあオレ布団敷いて来るし、出来たら買いモン行って来る。」
「あ、ごめん、明神さん。」
階段を上り、姫乃の部屋の前へ。
姫乃が来たばかりの頃は、勝手に部屋に入る事は何となく悪い気がしていたけれど、今ではこの扉を開くという動作もすっかり慣れてしまっている。
始めは、年頃の女の子という事もあって、ノックをして「どうぞ」と言われると少々戸惑った。
ドアノブを握り、それを開くのが何だか緊張して。
出来れば姫乃がこの扉を開いてくれたらな、といつも考えていた。
それが今では勝手知ったる姫乃の部屋。
手早く布団を敷き、タンスからパジャマを出して枕元へ置いておく。
それから、通学用の鞄を椅子の上へ置くと、今度は急いで階段を駆け下りる。
ソファーの上の姫野を抱えようとすると、姫乃は手を振り。
「あ。いいよ明神さん。この位は歩けるから。ね。」
その言葉を無視してひょいと抱えるととっとと階段を駆け上がる。
「わ。わ。わ。」
一段上がる度に姫乃が声をあげる。
姫乃の部屋へ戻り、布団の上に寝かせてカーテンを閉める。
「着替え、そこな。薬どこ閉まってる?」
「あっと…そこの棚の中。」
「はいよ。」
「…ごめんね。本当に。」
うたかた荘に戻ってから、熱に浮かされて調子のおかしい姫乃から、普段の姫乃に戻っている
明神は笑って。
「気にすんなって。」
「…うん。」
「ああ、でも。」
コップに水を入れ、薬と一緒に手渡しながら。
「次は兄妹ごっこより、夫婦ごっこがいいなあ。オレやっぱ兄貴ってガラじゃねえし。」
「わ。わ。わ。わかった。」
飯買ってくる、と勢い良く部屋を飛び出した明神を見送って。
暫く熱い熱いと思っていた頭がもっと熱くなっていて、姫乃は手でパタパタと頬を扇ぐ。
暫くそうしていたけれど、ふっと我に返って、用意されていたパジャマにもぞもぞと着替えだした。
脱いだ制服は、ちゃんと片付けるのがしんどくて、椅子にひっかけてそのままにしておいた。
布団に潜り込んで、目を閉じて。
「…お兄さんだったら、お兄ちゃんでしょ。旦那さんだったら、何て呼んだらいいのかな…。」
そんな事を言いながら。
頭の中がいっぱいで、結局姫乃は明神が戻ってくるまで結局一睡も出来なかった。
母が死んでしまったあの時、一緒の目線で立ってくれる、支えてくれる人が居ればと思ったけれど、今はただ、他人として生まれ、そして出会えた事に感謝しようと考えた。
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